障がい者がいるからこそできるユニバーサルレストラン – ル・クログループ(株式会社クロフーディング)

ル・クログループ(株式会社クロフーディング)
業種
(事業内容)
レストラン事業他
設立年月日2002年10月(2007年1月株式会社へ変更)
資本金1,200万円
社員数45人(うち、障がい者雇用4人)+障がい者就労訓練50人
本社所在地大阪市中央区
ホームページhttps://www.fooding.co.jp/

ダイバーシティ推進に取組む背景や歴史

2000年2月、「老若男女誰でも気軽に訪れることができるフランス料理店」をコンセプトに心斎橋にレストランを開店し、現在はレストラン5店舗(関西4店舗パリ1店舗)、福祉事業所4か所(大阪3か所、京都1か所)を経営しています。国内のレストランは、障がいのある社員や障がい者就労訓練者が活躍するユニバーサルレストランです。
ユニバーサルレストランを取り組むきっかけとなったのは、ある福祉事業所に「障がい者が製作した商品(お菓子)が売れないので手伝ってほしい」と言われたのがきっかけです。

当時、私はまず商品の改善に取組みました。
障がい者が製造する商品は、「障がい者が作れるものを作る」という観点から考えているものが多いですが、そうではなく、「売り先はどこか」「マーケットが何を求めているのか」という視点から商品を展開していきました。
そして、製造工程を見直し、業務を効率化・多様化した上で、障がい者の個性と業務をマッチングして商品を製造しました。
すると、プロの料理人が市場の動向を見て決定した商品がどんどん売れるようになり、デパートで取り扱いしてもらえるようになり、それにつれて障がい者の工賃(賃金)も上がっていきました。
また、製造工程を見直したことで、業務に余裕が生まれ、笑顔が絶えない職場となりました。
その様子を見て、障がい者の方が持つポテンシャルとやりがいを感じ、自分のところでも取り組みたいと思うようになりました。

また、飲食業界では今後人材不足が予想され、多様性を受け入れなければ生き残れないと昔から危惧していました。
特に職人の世界はアンチユニバーサルの世界で、このまま多様性を無視していけば、人材はますます集まらないでしょう。

それであれば、私が多様な人材がいるレストラン経営をチャレンジしてみようと、障がい者雇用を始めました。
現在、グループ全体で知的・精神・身体・発達障がい者およびダウン症の方が40人ほど活躍しています。

STEP
2015年

障がい者採用(障がい者就労訓練者から正社員へ)を開始

STEP
2015年10月

就労継続支援B型事業所(京都)を開設

STEP
2016年10月

就労移行支援+継続支援A型事業所を開設

STEP
2021年  4月

就労継続支援B型事業所を開設

ダイバーシティ推進の具体的な取り組み内容

【業務内容・工程の見直し】

障がい者就労訓練をしている方を、私達は「キャスト」と呼んでいますが、キャストにレストランで活躍してもらうためにどうしたらいいかを考え、まず着手したのが業務内容・工程の見直しでした。

フランス料理は、9割が事前準備で、残り1割はお客様がレストランに来てからの味付けと盛り付けです。
食材の仕込みなどの事前準備は、どんな人でも対応が可能なため、フランス料理は多様性、ユニバーサル(万人共通)の取組みに適しています。そうした事前準備における業務工程を見直し、業務を多様化し、キャストの多様性とマッチングして人員を配置しました。
また、業務環境の改善にも取り組みました。例えば、キャストに「急げ!」と言っても、どうしていいかわからなかったり、萎縮してしまったりする人が多くいます。「急げ!」を「急いでね」などの優しい言い回しに換えても、事態はさほど変わりません。

そこで、私たちは「言葉」を変えるのではなく、「業務工程」を変えました。「急げ!」と言わなくていいように業務工程を変え、急がないといけない状態を作らないようにしました。その取り組みによって、新人含め、誰もが業務に入ることができる環境になりました。また、それは効率化にもつながりました。

現在、障がい特性が軽度のキャストは調理場・ホールのサービスを担当し、重度のキャストは仕込みを担当しています。

【 福祉専任担当者の設置】

福祉事業所内に、障がい者の特性やコミュニケーションを熟知している福祉専任担当者がいる福祉チームを配置しています。
福祉専任担当者は、キャストの精神的な悩みやモチベーション、困っていること等の相談窓口です。
キャスト一人ひとりの個性に合わせて、福祉専任担当者がキャストと関係を築くようにしています。
また、当社では、各部門のリーダーの下に数名のキャストを配置しており、キャストと一緒に仕事をする現場のリーダーの悩みも相談する窓口となっています。

【各キャストの個人ファイル作成】

現在、35人程いるキャストですが、全員の個人ファイルを作成しています。
日々の業務や成長はもちろんのこと、モチベーションや将来の希望等も記載しています。
この個人ファイルを現場のリーダーや福祉チームが日々確認しながら、キャスト一人ひとりへの「関心」を常に持ち続けるようにしています。
また、福祉チームと現場チームで定期ミーティングを開催し、キャストに関する情報や課題を共有し、連携を図っています。

ダイバーシティ推進取組みの成功・失敗談

キャスト(従業員)が与えてくれた”気づき”

キャストが様々な業務に積極的に取り組んでくれる姿は、私達に多くの、新しい視点を与えてくれます。
先日は、車椅子を使用するキャストが、「立たない立ち飲みバル」というものを企画しました。
車椅子で立ち飲みバルに行くと、テーブルが高かったり移動しにくかったり不便であると感じていたそうで、だったら、「立ってはいけないバル」をやってみようという話になりました。
お客様もスタッフも全員車椅子に座り、立ってはいけないバルで、立つと全員に飲み物をおごるという罰金制にしました。
全てが車椅子からの目線で企画・運営され、当日は80人ほどのお客様が集まり、大盛況でした。

「その人にできることはなにか?」と考えた時、彼女の場合は「立たないこと」でした。
「立つことができない」ではなく、「立たないことができる」。モノの見方を変えれば、それが価値になるかもしれないという、新しい視点を彼女は多くの人にもたらしてくれました。

【無知はコスト】

2015年10月、就労継続支援B型事業所(京都)を開所した際は、大失敗をしました。
障がい者の雇用の場の創出と賃金向上を目的に設立しましたが、福祉事業とはどのようなものか、どう経営すべきかの知識がなく、やりたいという情熱だけでスタートしてしまい、大幅の赤字をだしてしまいました。
「無知はコスト」といいますが、この失敗から多くのことを学びました。
それから、福祉事業の経営ノウハウを学び、同じ情熱を持った、信頼する社員と共に一からやり直し、V字回復を果たしました。
現在は、15人の障がい者(身体・知的・精神・発達)が菓子製造(フードプリンタを使ってマカロンに印刷、ガトーショコラやパンダチョコの計量、チョコペンで顔書き、焼きなど)や下地作業を行い、商品は南紀白浜アドベンチャーワールドや醍醐寺カフェなどで販売しています。

ダイバーシティ推進の取組における経営上の成果

レストランでキャストを受け入れるようになってから、フランス料理の職人達の中には、料理作りだけに専念したいという理由から、退職していった者もいました。
しかし、私の想いに賛同したスタッフが残り、キャストにどう活躍してもらうかを考え、レストラン内の改善をしていった結果、キャストがいることによって、以前よりも職場の雰囲気が良い方向に変わりました。
声のトーンも穏やかになり、業務(ライン)を見直し、効率化・多様化したことで、全体に余裕が生まれ、笑顔あふれる職場となりました。
特に、職人の労働環境がよくなりました。
職人の修業期間中は、一般の労働時間の概念から逸脱していることがほとんどですが、私達は、業務を多様化してキャストに活躍をしてもらうことで、週休2日8時間労働で働いています。
また、レストラン業だけでなく、福祉事業を展開することによって私達グループの利益率は大幅に増加しました。
しかし、私の経営は数字だけを追っている訳でなく、常にキャスト含め、スタッフのために何かできないかと考えています。そして、福祉の理念は「人を尊重すること」。その理念を土台に、キャストがチャレンジできる場として、夢があるレストランを目指してこれからも経営していきます。

【企業の声】

様々な人で構成される組織づくりのために

2021年から、事業主の障がい者法定雇用率が引き上がり、現在多くの企業が障がい者雇用を積極的に行っています。
しかし、障がい者を受け入れる企業には、採用や定着に関して多くの課題があります。
まずは、障がい者雇用を行うことについて、社内の理解が得られているかという点です。
会社の方針として障がい者を採用したが、配属現場は全くその件を知らない、どうしたらいいかわからないという状況ではないか。

障がい者の方にお願いする業務が、きちんと用意できているか。
また、障がい者の方の中には、今まで働いた経験がない方も少なくありません。

そうした方々をフォローできる体制が整っているかどうか。
このような多くの課題をクリアしていない場合、障がい者雇用の取り組みが長続きせず、企業・障がい者双方にとって不幸な結果となってしまいます。
今一度課題を整理し、まず現場に障がい者雇用に賛同するリーダーを育成・配置することをお勧めします。
リーダーは、相手の立場を考えられる人や相手を家族と思えるような人が適任です。
障がい者の方が困っていることに気付き、フォローすることができます。
また、障がい者に対してのかかわり方を熟知している福祉専任者を置くことも、合わせてご検討ください。
これからの時代は、人材と働き方が益々多様化していき、企業は石垣のように様々な人で構成される組織作りが必要不可欠となるでしょう。
一人ひとりの個性を活かし、事業という建造物を組み立てていくのは、経営者や現場のスタッフにとって、とても忍耐と根気の要る作業となります。
しかし、そうして成就させた事業というのはとても強いものになります。
私たちも人材の多様性を活かした事業を、大阪でこれからも挑戦してまいります。

従業員の声

入社3年目 高谷思大さん

2020年キャストとして勤務を始めました。
1年目は調理場でクッキー作りを担当し、2年目である現在はホールを担当しています。 
勤務時間は、9:30~14:30です。

高校1年生の時に、学校の実習で当社に来たことをきっかけに、「この会社で働いてみたい」と思い、キャストになりました。
当社は、みんな仲良しで、明るく、雰囲気がとてもよい職場です。
働く前は、サービス業について全くノウハウがありませんでしたが、実際に働いて、サービス業の楽しさを学びました。
今はマネージャーになって、レストランのホール全体を管理することを目指して頑張っています。